第1回 オンかオフか、それが問題だ~カジノ解禁!?~

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紳士の国イギリスにはカジノなんてないのでは?とよく言われる。実は、大昔に英国教会の影響下で決められた法律のおかげで、その存在はいつも陰に隠されていたのだ。

審査による会員制、入会手続は賭けを始める24時間以上前に完了する事、などと敷居が高いが、そんなバリアをものともしない「やんごとなき方々」は、いつだって優雅に葉巻をくわえてルーレットやブラックジャックを楽しんできたのである。

労働階級は伝統的に町の「ブックメーカー」(愛称ブッキーズ)というところでギャンブルしてきた。場外馬券売り場が、全国の目抜き通りに他の商店と並んで建っている、と言えばその様子を想像してもらえるだろうか。スポーツや競馬はもちろんの事、お天気から王室のスキャンダル、あるいは総選挙の行方まで、何でも取り上げて勝率を決め、賭けてしまうのだ。


<繁華街の「カジノ」は実はゲームセンター>



<ピカデリー広場の「カジノ」も撤退、オンラインに変身>


彼らにとって、有名な老舗ホテルの奥などでひっそり営業するカジノはまったくの別世界。後にこの連載でご紹介する映画「007」シリーズを観て、主人公ジェームズ・ボンドの華麗なるカジノライフを仮想体験するか、成金にでもならない限り足を踏み入れる機会はない。行楽地などでは「カジノ」と称するゲームセンターがありスロットマシーンが置かれているが、現金を賭ける事は御法度。所詮はお遊びと、人気は降下していた。

そんなイギリスにも、ハイテクの波が押し寄せてきた。インターネットの普及につれ、合法にギャンブルできる国で運営されている「オンライン・カジノ」がひそかに人気になったのは5年前。国民のお金が外へ流出という危機感を感じた政府は、久々に法改正に乗り出した。

そして、この4月から数年かけて導入がはじまった「ギャンブリング・アクト」では、カジノの24時間営業や広告活動が認められた。この数年のうちに、誰でも身元証明書さえあれば即刻、プレイできる事になる。


国内でのオンライン・カジノ開設は解禁にならなかったものの、国内へ賞金を持ち込む事は認められた。結果として、経営に行詰まっていたゲームセンターなどがどんどん閉店、オランダなどに事務所を借りてバーチュアル・カジノの経営に移り出したのである。EU加盟国の強みである。有名デパートのハロッズまでこれに乗り出し、ブランド力に物を言わせて「リビング・ルーム・ギャンブラー」と呼ばれる、ホーム・コンピューターでカジノを楽しみたい人々を誘っている。

これじゃあ、わざわざカジノに行く人がいなくなってしまう?

心配はご無用。カジノでの賞金制限も緩和され、老舗は今まで以上に高いステータス・シンボルになりつつある。次回はそんなカジノの一つを紹介しよう。


<ウェストミンスター寺院の裏には貴族議員だけが使えるカジノがあった>



<「ハロッズ・カジノ」ホームページ。>


<スロットの絵はオーナーの国籍を表すエジプト柄>